
第65回
日本心身医学会九州地方会
会長 上村 尚人
大分大学 医学部 臨床薬理学講座 教授
このたび、2026年2月28日(金)・3月1日(土)の2日間にわたり、「第65回 日本心身医学会 九州地方会」を大分市のJ:COM ホルトホール大分にて開催する運びとなりました。本大会の会長を仰せつかりました、大分大学医学部 臨床薬理学講座の上村尚人と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。
私は、平成3年に大分医科大学を卒業後、当時の臨床薬理学講座の主任教授であった中野重行先生の門下生となりました。中野教授は心身医学の専門家でもあり、当時の附属病院臨床薬理センター(診療科に相当)では、心身症を中心とした全人的医療が展開されておりました。当時の私は、一般内科や救急を中心に診療に従事しておりましたが、研究テーマとしては、脳内モノアミン(特にセロトニン)代謝と不安・行動、コミュニケーションボックス法を用いた身体的/心理的ストレスによる抗がん剤薬効の変動、さらには、コカインや覚醒剤といった依存性物質の臨床薬物動態や、それらの心血管系・心理的薬効に関する研究などに取り組んでおりました。当時の教室には、九州大学心療内科からの医師や臨床心理士による人材的支援(派遣)もあり、臨床薬理センターでの診療を通じて、心身医学の観点から多くを学ぶ貴重な機会に恵まれました。とりわけ、九大から来られていた坂本真佐哉先生(現 神戸松蔭大学人間科学部)とは同じ医局員室で過ごす中で、システムズアプローチやブリーフサイコセラピーなど、症例を通じた臨床心理学的アプローチに触れることができたことは、私のその後の医師としての成長に大きな影響を与えたと感じています。
その後、1998年に米国に留学し、カリフォルニア大学サンフランシスコ校にて臨床薬理学フェローとなりました。さらに、米国メルク社本社の臨床薬理部門ディレクターとして多くの医薬品の臨床開発に携わり、早期臨床開発を主たる専門とする医師となりました。2014年に帰国し、現在に至っております。
私の専門は、合理的な薬物治療を追求する「臨床薬理学」であり、心療内科医ではない私が会長をお引き受けすることに迷いもありましたが、大分大学で心身医学の講義をご担当いただいている九州大学心療内科の須藤信行教授からのお誘いもあり、このたびお引き受けすることといたしました。
今回の大会テーマは
「こころとからだ、そしてくすりの交差点──全人的医療の実践と教育」
です。
臨床薬理学も心身医学も、臓器別では語りきれない学問領域であると考えます。現代医療、特に大学病院のような高度医療機関においては、診療が臓器別アプローチのみに偏りがちです。しかし患者の多くは、心理社会的背景や生活環境といった側面も抱えており、そこにしっかり目を向けることの重要性は、今も昔も変わりません。特に、高齢化や多疾患併存、多剤併用(ポリファーマシー)といった現代的医療課題に対応するには、医学・心理学・薬学・看護学など複数の専門領域が連携し、患者一人ひとりを「全人的」に理解・支援する視点が不可欠です。
本地方会では、心身医学、臨床心理学、薬物治療学の各分野における実践と教育の最前線を共有し、多職種による連携や教育のあり方についても議論を深める予定です。教育講演やシンポジウム、症例ディスカッションなど、充実したプログラムを通じて、参加される皆様にとって新たな学びと気づきのある2日間となることを願っております。心身医学を専門とする医療者はもちろんのこと、そうでない医療者の方々にとっても、「こころ」と「からだ」(心身医学)、「くすり」(合理的薬物治療)という視点から全人的医療を見つめ直す契機となることを期待しています。
大分の地にて、皆様とお目にかかれますことを、心より楽しみにしております。
令和7年7月吉日